夜のあしあと

耳をすませば
きこえる
夜のあしおと
ひたひたと
それは
あなたの
くちびるに
透明な音をたてる

とおいむかし
ぼくらがまだ
惑星の子供だったころ
お腹を空かせて飲み込んだ大気は
てんでばらばらにひろがって
神様の唇に冷たい雨を降らせた

涙がこぼれないように
星がこぼれる真夏の海
おさないころの記憶が
とおく地平線の果て船明かりに乗って
ぼくの耳のふちをくすぐる

あなたがまだ
この世界に生まれていなかったころの記憶
たとえば
それが
ずっと
心の奥に降り積もってゆくもので
なにもないところから
哀しみや喜びをつくりだしてゆくものなのなら
ぼくはなんどでも
なにもないそのばしょで言葉を紡ぐだろう
そうして
いくつもの夜をくりかえし
くりかえし
硝子の瞬きのような青い星の底で
密やかな望郷を密造する

なにもないそのばしょに眼差しを向けるであろう
硝子のコップからこぼれ落ちる水の惑星はあなた

夜のあしあとをたどって
空からゆっくりと落ちてくる宇宙の粒
タングステン鉱が刻んだ光に目を細めて
ぼくとあなたは記憶の終わりを静かに確かめる