夜

朝方になれば
君は笑って
夜の終わりを食べ尽くした
いつだって足りない言葉をのみこんで
目にしたものは
歩道橋の下に灯る街灯の薄明かり
たとえば
不安な心ともどかしい思い
隠そうとすればするほど
世界がぼくらの手のなかから遠のいてゆく
夜空の星
前方を照らすヘッドライト
白い息にくもる窓硝子
ラジオから流れてくるうすっぺらな言葉とメロディ
一瞬、生に向き合う孤独の火花が弾けて消える
夜と朝の隙間に打ち付けられたぼくらと世界を結ぶ小さな楔
パトカーのサイレン
フロント硝子に付着した虫の死骸
点滅する信号機
忘れていた心臓の音
ひとり
思い出す
ひとり

冷蔵庫のなかの月
硝子玉の月
夜に浮かぶ月
とおい月
待ち伏せの月
心のなかの月
目玉の奥でギラリと光る月
太陽と月
マグカップに注ぎ込む月
欲望と月
窓硝子に映る月
人影と月
さよならと月
街灯と月
海と月
暗渠に沈む月
紅茶と月
秘密と月
涙と月
風と月
工場の煙と月
石油ストーヴと月
雨空と月
冷凍保存された月
真昼の月
雪と月
ブリキの月
ピアノと月
君と月
霧のなかに
霞んで
溶ける
いつか見た月